私は貴方を騙し続ける。
もし貴方が騙されていると気が付いていても、フリをし続けて欲しい。
今日も話をしてくれますか、Curse Of the Beast~romancer~(私の虚につきあって。)
『私が綴るものは何か』
「今夜も私に時間をいただけますか」
私は馬車で進む道すがら、共に周囲を警戒する鎧の戦士に声を潜めて呼びかけた。
彼は少し意外そうに髭をぴくりと動かしたが、表情は木の隙間を貫く西日の逆光で詳しくは読み取れなかった。
「あぁ。もちろんだ」
何が意外だったのだろうか。馬車の外で会話が聞こえる範囲に他の者がいないとはいえ、我々の密会をほのめかすようなことを伝えたことだろうか。それとも機会があればほぼ必ず時間を合わせているのに、わざわざ事前に許可を求めたことだろうか。
いいえ、違うでしょうね。
「だが、いいのか?」
ライアンさんは静かに思案しているように見えた。静かで小さい声だったが、馬車の車輪が踏んだ枝がバキリと音を立てるよりも、私にははっきりと聞こえた。
「いいのか、とは?」
私は彼の思う疑問点を分かっていて平然としらばっくれた。
そう、今日の夜は本日の目的地である聖地ゴッドサイドでの最後の駐留をする予定だ。装備の準備と共に、それぞれの心の準備をするために。
「……いや。余計な質問だった。忘れてくれ」
私は腑に落ちないまま疑問を撤回しただろう彼に少しだけ微笑みかけた。
「私が、それがいいと思ったのです」
そう。
最後の決戦に挑む前の最後の時間を貴方と過ごしたいと。
他ならぬこの私自身が、思ったのです。
落ちていく金色の西日を、紫色の闇が飲み込んでいく。
強い日に反射する貴方の鎧は私には眩しかった。
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