『守り続けたかった。』



 私は力の抜けた重たい彼の体をベッドに横たわらせて、口元を汚す血を丁寧に拭き取った。

 そう、毒だったのね。
 あなたは私の目の前で平然と、毒を飲み干してみせたのね。

 私は目の前で眠る懐かしい神官の唇をそっと指でなぞった。
 美しい髪と白く透き通るような肌。 私よりもきれいだった彼の髪と肌。 少しだけ羨ましかった。 そんな彼の唇はやはり柔らかく、私の指先を捉えて離さない。
「この勝負は引き分けかしら」
 私は力なく座り込むと、彼の唇にキスをした。 口内に残る鉄の味と苦いものを味わうように。

「バカなクリフト」
 今度は近くで瓦礫が崩れ落ちる倒壊の音がした。私は気が付いた。 恐らく、お茶の時間を利用して彼はこの倒壊を計算して待っていた。 そして、中庭に近い彼の部屋に向かうことも。 中庭にある古井戸はサランの町外れに抜ける隠し通路であることも。

「私は誇り高きサントハイムの女王。…逃げも隠れもしないわ」
 私は彼の横に体を並べた。
「そして、あなた以外の人間に討ち取られる気もない」
 たとえ、この聖なる城を支配する王家(サントハイム)が、鋼鉄の薔薇(ロゼスティール)にとって代わられるとしても。

 焼ける様な痛みが胸を突いた。 彼がそれに耐えていたように私はきっと青い顔をして、なんとか笑むと彼の手を取った。
「…今度は私が子守唄を歌ってあげる」


 curse of the beast~insomnia~。
 眠ることのできない、災いの子。

 でも。
 これであなたの悩みも終わり。
 一緒にゆっくり休みましょう。

 お休みなさい。クリフト。




 聖ドラリウス暦183年。聖なる丘に小さな花のついたグリフォンの月。
 死者235名、負傷者2315名。革命は成功した。

 サントハイム王家滅亡。



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(恋する七題:絡める指先)