『ずっと』
「クリフト。最後に聞かせてほしいの」
「……なんでしょう?」
私はティーセットをトレイに乗せて片付けるクリフトを他所に、彼のベッドに腰掛けた。
「私のこと、好き?」
クリフトは片付けていた手を止めた。
「…はい」
「じゃぁ、愛してる?」
「……………」
彼は片付けを再開しながら、答えた。
「………いいえ」
私は、弱々しい声で、しかしあまりにもはっきりとしたその否定に血の気が引ける程に動揺した。
「私は…あなたを愛しているわ」
「私は愛してなどおりません」
今度ははっきりとした拒否の言葉。冷たく強い声色に、泣き出したくなる。
「それじゃぁ、最後のお願い。…今だけでも私を愛して」
私は彼が座ることができるだけ、腰をずらしてスペースを空けた。
でも、クリフトは私の目の前にやってきただけで、直立したまま私を見ていた。
「…それならば、代わりに男の証を切り落として陛下に捧げましょう。
私の誠意が伝わるように…」
「そう…」
人生、最初で最後の失恋。
私は顔を伏せた。必死に歯を食いしばる。そうでもしないと、泣きじゃっくってしまいそうだった。
「…姫様…、私は…、わ…たしは…」
クリフトの声色に違和感を覚えた私は慌てて彼を見上げた。
「クリフト!?」
咳をした口元を押さえる彼の指の隙間からあふれ出した鮮血。
崩れ落ちるように膝をついたクリフトの体を必死に抑え、何度も彼の名を呼ぶ。
「わ、たしは…。これは、仕方のない、こと。…なにも…」
言い終える前に力の抜けた体。
何度名前を叫んでも、何度体を揺さぶっても、還らない生命。
私の初めての失恋は死に別れだった。
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(恋する七題:離れたくない)