『望んでいたのでしょう。』
私は少しの会話を交わすと、血の気の引けた顔を見せないためにも早々に食器を片付けることにした。
彼女に背を向けると、気が抜けて顔を歪めてしまう。
そんな私の気苦労を知らない陛下が私の背に問いかけた。
「クリフト。最後に聞かせてほしいの」
私はどんなに恐ろしい質問かと体を強張らせた。
「……なんでしょう?」
「私のこと、好き?」
思わず、片付けの手が止まる。私は擦れた声で答えた。
「…はい」
「じゃぁ、愛してる?」
「……………」
私は彼女の問い掛けの真意を掴んだ。動揺を悟られないように片付けを再開しながら答えた。
「………いいえ」
陛下の言葉が一瞬、止まる。どんな顔をしていることだろうか。想像もしたくない。
陛下の望みを叶える事はできない。
「私は…あなたを愛しているわ」
毒に震える喉が出せなくなりそうな声を必死に絞り出した。
「私は愛してなどおりません」
「それじゃぁ、最後のお願い。…今だけでも私を愛して」
振り向けば姫様は私のベッドに腰掛けて、私が来るのを待っている。
思ってもみなかった最後の勝負。陛下と心中するというもう一つの勝利。
私は陛下の前へと進み出た。
死を呼ぶキスを交わすために。
あぁ、陛下。
なんと悲しい顔をなさるのですか。
私は自嘲した。最後の最後まで、私はやはり臆病者だった。
「…それならば、代わりに男の証を切り落として陛下に捧げましょう。私の誠意が伝わるように…」
「そう…」
陛下の命を奪うことなど最初から出来るわけがなかった。
震える声で俯く陛下を見て、私はようやく本当の望みに気が付いた。
「…姫様…、私は…、わ…たしは…」
時間切れか。
胸からこみ上げるものを咳き込んで吐き出した。
「クリフト!?」
目が霞む。もう、立っていることも敵わない。膝をついたその感覚もすでになくなりかけていた。
遠くで陛下が私の名を呼んでいるのが聞こえる。
ようやく気が付いた私の望み。
私は死ぬときに、姫様に私のためだけに泣いて欲しかった。
近くにいてくれるだろう姫様に朦朧と語りかけた。
「わ、たしは…。これは、仕方のない、こと。…なにも…」
姫様は間違っていない。
遠退く意識の中で何度も姫様の声をきいた。
私はあなた様に愛している、と伝えなかった。それが私の唯一の勝利。
この部屋は中庭に位置する抜け道の井戸に近い。
神よ、どうか優しい姫様がここを無事に脱出して、生き延びられますようにお助けください。
ああ、でも。本当は。愛している、と言いたかった。
<fin>
back
ウィンドウを閉じて戻ってください。
これを書く1年近く前に見た夢が元ネタです。
あと、この話だけに限らないのですが、
私はイメージに合うように、単語は捏造するし、勝手に意訳するので、
こんな呼び方があるんだぁーなんて思うと大変なことになります。嘘付きだから気をつけて!
(例えば七題:あいしていると言えたなら)