『心の底に燃えるもの』



 少し前、最近までこんなに苛立つことはなかった。
 姫様のことを思うといらいらして仕方がない。
「…っ」
 放出のときを迎えた体は完全に弛緩して、ぐったりと倒れこんだ。


 何がきっかけだっただろうか。
「…あぁ」
 気だるい思考の中で思い出した。
 数日前の馬車の中での会話。

 ライアン殿の他意のない言葉。
“アリーナ姫様は旅に出ていて、婚約者様は心配してはおられないんですかな?”
 それはそうだ。
 姫様ももう結婚してもおかしくないお年頃だ。王族の結婚は早い。
 婚約者など生まれる前から決められていてもおかしくはないのだ。

 一番、私を苛立たせた言葉は、
“私はまだその気がないのよ。気が向くことがなかったら一生独身でもいいわよ”
 という、姫様の一言。


 なんと無邪気に私の心に波を立てたことだろう。

 早く姫様なんか結婚してしまえばいい。
 そうすれば私は身分違いの恋だったと諦めることができるのに。
 どうして、そうしてくれないのだろうか。
 いつまで私は決して見込みのない万が一に期待しなければならないのだろうか。
 早くどこの王族でも貴族でも政治家でも婚約者を見つけてくれればいいのに。

 だから、私は貴女が憎くて仕方ないんです。

 いつか必ず貴女に仕返しをしてやるんです。
 貴女は私のものにならなくても、私という存在を貴女に刻み付けて 私だけのものにしてみせましょう。


 愛している分だけ、貴女を憎んでいます。



 後処理を済ませた私は形だけでも罪を謝罪するべく十字を切って眠りに落ちた。





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(痛い恋愛七題:君は私だけの君)