『心の底で笑うもの』



 村だった場所、誰も居ない森の中。中心のお花畑で三人だけ。
 あたしの目の前で楽しそうにくるくると回って笑う小さな女の子と男の子。
 あたしの宝物。

 ぜったいに誰にも渡さない。
 あたしのお母さんはきっと天空の上から見ているのでしょう。
 でも、あたしのお母さんとお父さんはこの村であたしを育ててくれた村の人達だ。
 あたしを見て泣いたあの人はお母さんではないと思っていた。

 でも、今ならわかる。母となった今なら。
 どんな思いであたしを産んで、あたしを地上に残したのか。

 どんなに悲惨な結果を残すことになるとわかっていても。 どんなに不幸が訪れるかもしれないと思っていても。
 愛した男がこの世界にいた痕跡を残したかった。

 最後の戦いのときに地獄の崩壊の中で天空の竜の背に乗ることを拒否して、 大いなる悲しみと呪いと共に大地の封印の中に残って消えた彼。
 紅い炎とマグマの中でもあの人のサファイアの髪と瞳は煌いていた。

 あぁ、何年もの間、共に過ごした可憐なお姫様は今、どうしているだろうか。
 あたしに会いたいと少しでも思い出してくれることがあるだろうか。
 あたしの子供達を見たときの彼女の顔は忘れない。

 お姫様はいつまでも帰らぬ人と知りながら待っている。
 やっぱり貴方は残酷で卑怯な人だったわね。

 あたしにもアリーナさんにもこんなにも胸を引き裂かんばかりの痛みを残して去ってしまうだなんて。

 でも、きっと。あたしが今、こんなに愛しい宝物を授かったことは貴方にとって誤算だったのでしょうね。
 唯一のあたしから貴方への仕返し。愛しくて仕方がない、ちょっとした仕返し。

「ママ。お腹すいたよ」
「ママぁ」
 ぼうっとしていたあたしの目の前に二人の子供が擦り寄ってきた。
「ごめんね。クリフ、カレスティア。じゃぁ、おうちに帰ってご飯にしましょうね」

 あたしはエメラルドの髪を持った娘とサファイアの髪を持った息子、大切な宝石の手を取って、夕日の中歩き出した。








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(痛い恋愛七題:この想いごと)