『何処からやってきて、何処へ行くのだろうか』
今は何時で何処、と言えばいいのだろうか。
取り合えず今、私はガーデンブルグという女だけの国にいる。
さらに珍しいことといえば私は地下の牢屋に捕われている。
まったく、おもしろい珍事だ。
別に罪を犯したわけではない。冤罪に他ならない。しかし、その汚名を晴らすためにも私は自ら人質を買って出た。
だからここにいる。
狭い石造りの地下牢は幸いにも独房だ。良かった。本物の犯罪者と生活を共にするなど考えたくも無い。
私は神に仕える穢れ無き身だ。捕らえられるなど考えてもいなかった。
しかし、過去の聖人がそうであったように捕らえられるのも面白いかもしれないと気が向いた。
これも非常におもしろい珍事だ。人間とはこうも気まぐれなものなのだ。
旅の仲間達が真犯人を捕らえてくるまで、と私は体験する程度の気持ちでいた。
それがどうだ。今日で一週間だ。まさか私を置いて旅を続けているのかもしれない、などという罪深き被害妄想にも捕われてみる。
酷い裏切りだ。そんなことはないと思いつつも、もしそうであれば報復も辞さない。
「…ふふ」
自嘲の呻き声が耳に響いた。そんなことがあるはずがない。
なぜならあの方が私を助けてくれるはずなのだから。
旅の仲間の内には私という月を照らす太陽がある。
滑稽な話だ。
私は彼女を太陽と崇めている。
そして彼女は私を縛り付けている。身勝手なことに私を選ぶことはないというのに。
大人になり、私はようやく我慢することを覚えた。
ただ、それはお預けをくらった犬がいつまでも許しをもらえないで涎を垂らしているかのようにじれったい。
身を焦がすような衝動を絶え続ける苦痛。
滑稽な話だ。
そんな苦痛すらも愛おしく感じる私は病んでいるのかもしれない。
そして思うのはそんな苦痛をあの方にも与えたい、というこの衝動とそれを思うだけで動悸するこの心臓のことだ。
私は我慢を覚えた。
私のものにしては決してならないものなのだと。
彼女を捕らえて、私が心地よいと感じるこの苦痛を与えたいというこの激情に耐えなければならない。
ところが事態は深刻だ。
軽い興味から入った独房で得た孤独の時間は私のもの思いを加速させている。
この一週間の間に、何度彼女を蹂躙したことだろうか。これがもたらす結果とは何か。
どのような形であろうと悲劇、惨劇、それ以外は有り得ない。
私は我慢を覚えた。
しかし、人間の性質などそんなに簡単に変化するものではない。
あの小鳥を愛したときのように。私の心を繋ぎとめる枷が何度目かの崩壊を起すときも近いのかもしれない。
そうなれば、後は堕ちるだけだ。私かあの方かどちらかが死ぬとき。
あぁ、それもいいかもしれない。
そう思った私は確実に病んでいる。
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(漢+カナ七題:水色エマージェンシー)