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『執着すればするほど、ひどくなる執着』
彼女の言う通りだった。会話もうまく、体の相性もいい。 彼女も必要以上には私に近づかず、仲間達は誰もこの関係に気が付いていないようだった。
一抹の不安はある。私が愛したものは端から私を裏切って壊れていった。 思わず手に入れた女がいつ私を裏切るのか怯える日々のはじまりでもあることを私は理解していた。
「どうして昨日は来てくれなかったんですか?」
「んー。ミネアとずっといたから」
彼女は足の爪を塗りながら、曖昧にそう私に返した。
「少し前にもそう言ってましたね?」
「まぁ、姉妹だからね。一緒にいる時間は長いわね」
「私を見てください」
「もうちょっとで終わるから少し待って」
私はマーニャの背後から抱きしめるように腕を絡めた。その髪を持ち上げて首筋にキスをする。
「痛っ」
耳たぶを噛まれたマーニャは跳ねるように反応して私の方に向き返り睨んだ。
「何するの!」
そんなに強くは噛んでいないのだが、思いのほか怒っているのを見て私は苛立った。
「…浮気してないですか?」
「してないわよ!」
即答だ。
「…嘘をついているのでは?」
「本当のことしか言っていないって。恋人の言うことを信じられないわけ?!」
私は言葉に詰まった。確かに、その通りではある。なんと心の狭い男だろうか。自分でも必死すぎて嫌になる。 でも、彼女の言葉に感じた違和感は確かなものだ。
「でも、貴女は私に何かを隠してますね?」
「それは…」
否定して欲しかったのに、動揺して言葉が続かなくなったマーニャを乱暴にベッドに押し倒した。
「私を裏切らない、と言いましたよね?」
「…言ったわ」
「じゃぁ、言ってください。貴女は嘘をつきましたね?」
「……………………ついたわ」
私は愚かだ。
最初から彼女は軽かった。自分以外にも迫るということは考えていなかったことは愚かとしか言いようがない。
落胆した私の表情、態度を察したのか、マーニャは慌てて弁解しようと口を開こうとした。 これ以上はきく必要はない。私は彼女の身につけているものを強引に剥がして彼女の口に突っ込んだ。
「それだけきければ十分ですよ」
悲しそうに目を伏せたマーニャに無理やりに自らを押し込めた。
彼女は無抵抗だった。
「少しは嫌がったらどうですか!」
「……」
そんな態度も嫌だった。普段なら心地いい行為も痛いだけだった。
私は何度もマーニャをいたぶった。
意識を失ってしまったマーニャを置いて私は服を着るとさっさと部屋から出た。 私以外の誰にも目に触れないように鍵をかけて。もう二度と、彼女が私以外の人間には会えないように。
部屋から出たものの、割り振られた部屋には彼女がいる。彼女の部屋には占い師がいる。 さて。今晩はどうしたものか。私はアテもなく歩いていた。
このまま部屋に戻れば、今度は彼女に対して取り返しのつかないことをしてしまうかもしれなかった。
心の離れたマーニャ。
あぁ、またこの繰り返しか。また私は良いように操られて利用されていたのだ。
そして、私を裏切って、誰と会っていたというのだろうか。
「…っ」
こんなこと、考えたくなかった。いくら頭から追いやろうとしても離れない想像。 戦士か商人か。それとも行きずりの誰かか。何も知らない私をあざ笑っていたのだろう!
「あ、クリフトさん。姉を見ませんでしたか?」
何も知らない占い師が私を見つけて問いかけた。
マーニャと同じ顔で!今、このタイミングで!
私が密かに拳を震わせていたのは薄暗い廊下の明かりでは分からなかった筈だ。 この理性が邪魔さえしなければ、この占い師すらも滅茶苦茶に壊してやりたい程に私は混乱している。 どうしようもない男だ。それを押さえて私はやっとのことで一言呟いた。
「…すみません」
「そうですか」
占い師は首をかしげた。
「今日もクリスさんとアリーナさんと一緒に待ってるのに」
「?何か相談事でも?」
不思議そうな私に占い師は『ごめんなさい』と補足した。
「最近、夜にクリスさんとアリーナさんと姉さんと私で集まってお話することがあるんです」
「…はぁ」
「えぇ。姉さんったら最近“クリフトが”ってクリフトさんの話ばっかりするんですよ。 まるで、恋しているみたいに。…おかしいですよね、姉さんは見た目によらず乙女なところあるんですよ」
…マーニャが…私のことを話していた?
あの売女の如き女が私の知らないところで、私の何を話していたと?嘲笑でもしていたのか?
知りたい。そんな衝動に駆られた。今までに感じたことのない知識欲だ。
「どんな話をしていたんですか?」
占い師はマーニャと同じ顔で、彼女の見せないような控え目な笑顔を見せてくすくすと笑った。 別人と分かっていながら、彼女の新しい一面を発見したような気になり、また占い師をマーニャと重ねてしまう。一々そんなことを感じていたら、本当にこの占い師も傷つけてしまいそうだ。
「アリーナさんからクリフトさんのお城にいた頃のお話をきいてましたよ。私がここでお話しするのもおかしいかもしれませんけど、クリフトさんのお食事の好みとか」
まさか。
「最近…」
「そうなんです。女の子同士仲良くしているんですよ。昨日の夜も姉さん、楽しそうにクリフトさんのことかわいいって言ってましたよ」
まさか。
私は占い師と話していることも忘れて、自分の部屋へと走って戻った。
乱暴にドアを叩き開けると、彼女は目が覚めていて何も身につけないままに呆然と横になっていた。
「どうして!」
私は彼女を壊してしまいそうなほどに強く抱きしめた。
「何を隠すことがあったというんですか!?」
マーニャは察したように私の背に腕を回した。
「どうして!?私は…私は!!」
「ヤキモチ焼かないの」
「…私は貴女の全てを知りたい。全てが欲しいんです。何もかも独占していたいんです」
隠し事をされるのはひどい裏切りだ。そう続けようとした私の口を今度は彼女が唇で塞ぐ。
「?!」
体が回転した。
呆気に取られた私はいつの間にか彼女に組み敷かれ、上から見下されている。
「…え…?」
「いい大人が嫉妬で涙目なんてカッコ悪いにも程があるわよ」
「…じゃぁ、教えてください。何で隠したんですか?」
鋭すぎる指摘をされた私は、口ごもりながらも尋ねた。そこだけは引けなかった。
「気になるの?」
「気になりますよ」
彼女は私の着衣を手馴れた様子で脱がしていく。
「誤魔化さないで答えてください。返答次第では先程の程度では済みませんよ」
「人に物を尋ねる態度じゃないわね」
先の仕返しということか。彼女は私の敏感なところを熟知している。 素直に反応する自分がじれったい。
「マーニャ!」
「あー、もう!」
マーニャがようやく体を起した。
「……お姫様に嫉妬して、必死になってあんたのこと知りたくて。なんて、そんなこと面と向かって言える訳ないじゃない。 そんなんだったら、疑われた方が余程スマートだわ!」
私は目を見開いて彼女を見上げた。不思議と口をついて出た言葉は。
「…“いい大人が嫉妬して涙目なんてカッコ悪い”」
「そう思われるのが嫌だったのよ!この馬鹿!」
「私が馬鹿なら貴女は阿呆です」
そう言い返した私の腕は頭の上で押さえつけられた。マーニャはギラリと光るような目で私を見ている。
「今度は私があんたが“許してください”って言うまでアンアン言わせてやるわ」
「そっくりそのまま、私がその言葉お返しします」
思っていたよりも、ずっといい女だった。
もっとこの小鳥の“飼主”でありたい、そう思った。
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(漢+カナ七題:拷問パラノイア)