『形で。』
「お勉強は大切だったでしょう?」
私の命を狙ってきているのだろう彼は、そう言って優しく微笑むと持っていた剣を鞘に収めた。
「…昔、幾度か姫様…いえ、陛下とチェスの勝負をさせて頂きましたね。覚えていらっしゃいますか?」
私は振り向いた。
「覚えているわ」
「…私は一度も陛下には負けなかった」
クリフトは拳を前に突き出すと、何かを落とした。
大理石の床に跳ねたそれはガラス製のチェスの駒。
ビショップとクイーン。
「チェックメイトです」
彼の暗く蒼い瞳が私を貫き通すようだった。
……。
私は息を呑んで、彼の行動を見守った。
しかし、彼は動かずに私をただ見つめている。
まさか、私の言葉を待っているのかしら。
「最後に聞かせて。…クリフトは何故、私を裏切ったの?」
クリフトはやはり、私の言葉に唇を震わせた。
「結果的に私は陛下とこのような形で再会することになってしまいましたね。
…しかし、私も聖職につく者。国家権力と教会勢力との争いになれば、どちらにつくか。
これは私にも陛下にも制御できるものではありません」
「だけど、あなたはこの戦いが始まってからずっと表に出てくることはなかった。
あなたが前線に現われて戦況はひっくり返されたわ。…どういうこと?」
クリフトは苦笑すると、首をゆっくりと横に振った。
「…それは、きっと。私が陛下の命を頂きたかったのでしょう」
……。
遠くで大きな音がした。城の一部が倒壊したようだった。
彼の示した通り、これまでのようだった。
「…そうね。どうせ、討ち取られるなら、あなたがいい」
「……」
私はドレスの裾の中に隠していた短剣を彼の足元に向かって投げた。
クリフトは無言で短剣を拾い上げて、しまい込むと穏やかに微笑んだ。
「…陛下。最後に。お茶を淹れましょうか」
「悠長ね。早く私を片付けてこの城から逃げ出さないと、ここも崩れるかもしれないわ」
何故か私の方が彼を心配してつい出た一言に、彼は可笑しそうに笑った。
「その時はその時ですよ」
私は彼に導かれるように、いつも二人で話をした彼の執務室へと向かった。
next
back
ウィンドウを閉じて戻ってください。
(恋する七題:永遠に君だけ)