[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
『あなたを』
私の前に置かれたティーセット。クリフトの入れてくれるお茶の香りは何も変わらなかった。
「内乱が起きて、私のような反乱分子の部屋をどうしてそのままにしておいたのですか?」
「…さぁね」
私は彼の部屋を誰にも触れさせなかった。 敵の情報があるかもしれないから、手紙類だけは全て没収したけれど、参考になるようなものはどこにもなかった。 もっとも、そんな下手なことをするような人ではないことはよくわかっていた。
私は一口、カップに口をつけた。
暖かい。
内乱が起こってから、こんなにゆっくりとお茶を楽しんだことはなかった。
「美味しいわ。やっぱり、あなたが一番、お茶を淹れるのが上手ね」
クリフトは私の顔を覗き込むように見つめて、嬉しそうに頷いた。
「良かった。私も久しぶりに淹れたので自信がなかったんです」
そういえば、と私は思い出した。
「クリフトは戦いが終わってから不眠症に悩んでいるって言ってたけど、最近はだいじょうぶなの?」
彼は戦いの後、不眠症に悩んでいた。 きっと戦いが終わって環境が激変したためだろう、とブライも心配そうだった。 そんな彼は内乱が始まって、すぐに城を出て行ってしまって。 どこにいるのか分からない彼がずっと気がかりだった。
クリフトは声を落とした。
「…正直に言うと。今でも眠れないことが多いです」
「そう。ずっと、それを心配してたの。原因は何なのかしらね?」
「…思い当たる節もあるんですけどね」
クリフトは暗い声でティーカップを持ったまま、そこに映り込んだ自分の顔と睨めっこしている。
「思い当たる節?」
「あ、何でもありません」
突然、もの思いから我に還ったようにクリフトは笑顔に戻ったかと思うと、 お茶を一口飲んで、微かに渋い顔を見せた。
「どうかしたの?」
「…いえ…、もう少しお湯の温度を高くしておかなければいけなかったかな、と」
クリフトは昔から、こういった話には細かい。私はそんな話になる度に、
「私は別に気にならないわ」
と、このように励ましてきた。 いつもはそれで彼は納得してくれるのだが、今日は最後というだけあって表情は晴れないままだった。 きっと最後なのだから最高のものを、と思ったに違いない。
「クリフト。私は今朝には今頃は敵兵に討ち取られているか、断頭台に送られていると思ってた。 だから最後にこうしてあなたとお茶できるだけで幸せよ」
クリフトはそれでも渋い顔のまま苦笑した。
「そう言っていただけると、私も幸せです」
next
back
ウィンドウを閉じて戻ってください。
(恋する七題:恋風)