『私が』



 クリフトと話す、何気ない会話。これが最後。
 彼の透き通るようなテノールの声を聞いて、私は思い出していた。
 クリフトが城に来たばかりの頃、私が彼を部屋に呼んでわがままを言ったときのことを。


『クリフト。眠れないわ。私のために子守唄を歌ってちょうだい』
 私は彼が言うことをよく聞く事を知っていた。
『私は、あまり歌を知りません…』
 あなたはそう言って、悲しそうに肩を落としたわね。
 あなたが本当に知らなかったことを私は理解していた。 彼の生まれ育った環境、城に来た訳。全てを理解していたから。
 だから、私は一度だけ彼の前で歌ってみせた。 亡きお母様がよく歌ってくれた子守唄を。
『こういう歌なの』
『わ、わかりました』
 あなたは私よりもずっとずっと覚えが良かった。 一度だけ歌ってみせた歌を一つの間違いもなく歌い上げた。
 透き通ったテノール。
 踊るような旋律。
 空気を震わせる感情。

 でも。
『やめて!』
『…!』
 クリフトは驚いたように口を閉ざした。
 私は苛々と寝返りを打った。
 まるで、嘆いて軋む大地の唸り声。
 まるで、哀れみを歌う風の悲鳴。
『そんな恨みがましい歌声でお母様の子守唄を歌わないで』
『……すみません…』


 もの思いにふける私を不思議そうに見つめるクリフト。
 ずっと、あなたの心は悲鳴を上げていたのを私はあの頃から知っていたというのに。

 curse of the beast。呪われた神の子。

 それでも、私はそんなあなたとの時間が大好きだった。



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(恋する七題:君の声しかいらない)